新10 1-
5:品川くじら 1/5 3:4
湯けむりレズリング(41)
「あら?坂上さん、って言ったっけ?貴女、これがどういう競技だか解かってないの?」
挑発するように冷ややかな笑いを込めた視線を送る綾香。
「そんな事はない。なんなら覚悟を見せてやろうか?」
反論する智代だが、表情は強張ったままだ。内心嫌がっているのが見て取れる。
「では論より証拠という事で、私と絡んでみるかい?」
優位と見て畳み掛ける綾香。
「どうやら避けるわけにはいかないようだな・・・。やろうか。」
負けん気の強い智代は後(あと)に退(ひ)く事を考えられなかった。
ハルヒ対環のレフェリーを終えたばかりの由宇は2人のやり取りを聞いて呆れるように言う。
「やれやれ、あんさん達も試合するつもりなんか。ええわ、ウチが続けてレフェリーやったる。」
由宇と唯湖は大急ぎで先ほどの試合でずれてしまった布団を直し、特設リングを設営した。
そして綾香と智代の2人は着衣を脱ぎ捨てた下着姿でリングに上がっていく。
「あんさん達、さっきの試合でルールについては知ってるやろ?ほんなら始めよか。」
リング中央の2人は半歩の距離で向かい合う。
「はい前半、試合始め!」
由宇の掛け声で2人は一気に距離を詰めた。
綾香の動きは格闘技で鍛えられた無駄の無い動き方だが、智代のそれは野生動物の素早さと荒々しさだ。
互いに有利なポジションを取ろうと出方を探ったり、フェイントを掛けたりする。
膠着する情勢に気が焦ったのか智代が積極的に仕掛けた。
綾香の利き手を封じようと左手で、相手の右手首を掴みにいく。
(42)へ続く

ir ver 1.0 beta2.2 (03/10/22)